第50話.ブルーマンデーキッズ
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「修治がこれから乗る飛行機。……落ちないと良いな?」
「縁起でもない事、云わないでください。他の人も乗るんですから」
「いや、敢えて云わせて。もう誰か亡くすの嫌なんだよ」
バッグを置いたまま、梶は立ち上がる。其の間も飛行場は忙しない。
「修治が見繕ってくれた資料、3分の2程、目を通した」
「朝迄、事務所に居たんですか」
「一旦、家に帰ったよ」
瞬きもしながら、話し続ける梶。黙って横顔を眺めている國村。
「思い出してた。気の合う友人で妹の婚約者。2番目の弟が結婚を反対してると相談された。
『オレが日本に行っちゃうからね』って。『翻訳は副業』『曾祖父の店を継ぐのは兄さんだろう』って。『セイゴ、どうしたら良い?』って。
背後に視えない円を持つ友人。役に立てばとの思いで、同じ形の円を持つ人との共通点を捜した」
「……御友人の持っていた『印章』を訊いても良いですか」
「継承の印章。使い方によっては親や故郷に囚われる。でも当時のオレは『印章』という名も、12種全てに名前がある事も知らなかった」
雲が動き、明るくなるウッドデッキと対称に、濃い二人の影。
「祖母から店を継ぐ様に云われた弟が一家心中を図った。助かったのは友人だけ。彼は今も一人ルクセンブルクに居る」
「……友人の代わりに日本に来たのでしたね」
「仕事相手は大阪に居るって訊いてたんだけどね」
溜め息を吐く梶。
「背後の円を研究している『中央』という機関。代表から
『学べば身内が不幸になる。しかし日本で印章のジンクスは起こらない』
『日本に神は居ないからだ』と云われた」
「八百万の国で何を云っているんでしょうね……私の父は」
今度は梶が國村を見る。
「桜海くんは朝から遠縁の家でしたね。父は公表年齢より20歳近く若いですし、彼も代表以上に父を知りたかったのでしょう」
「色々、手遅れなんだろう。修治が頑張っていた7年近く。オレ、何をしてたんだろうね」
「良いんですよ。貴方も怜莉くんも桜海にも自由に動いてもらってはいけなかった。
『秘匿の印章』を持った私が『中央』に留まった理由。
其れにもう手遅れだからこそ、私達は自由です」
「けどさ。オレの預かり知らないとこで次世代の世話役は準備済みって訳ね。
千景と百音ちゃんの娘の莉恋ちゃん。怜莉の親友の息子辺り」
「……多くを巻き込んでしまう事になって」
「そういうけど、今から誰か迎えに行くんだろ?」
「ええ。残念ながら」
「こっちも怜莉の親友を呼びたい。全員、集まってから話そう。出来れば年内に決着を着けたい」
「……年内ですか」
ケータイを開く梶。千景からのメール画面を再び開く。
「千景は影響力の象徴である『印章』を持たないから、周囲は重要視しないけどさ。『印章』もしっかり視えて、しかも
『印章』の影響を受けにくいって相当珍しい筈なんだよね。
おまけに視力も聴力も良い。オレ、最初、怖かったもん」
くすくすと笑う國村。
「オレが会えたのなら、千景も会えると思った」
云って、ケータイを國村に渡す梶。國村は文面に目を通す。
怜莉の彼女に会えました。普通のカップルって感じでしたよ。あっさり会えたんで、一カ月近くも警察が接触どころか、姿も見ていないのが不思議です。
時折、手を止めながら、続きを読む為にスクロールをする國村。一番下に貼られた画像を見て、険しい顔をする。
「彼女がイブかどうか。最終的には桜海じゃないと分からないかもしれない」
「梶さん。千景くんが描いた絵。ブルーマンデーキッズの兎です」
「オレ、知らないんだよね」
「小学生女子に人気のキャラクター。大きな梨の上に小さな動物が何匹か座っていて、皆、憂鬱って設定。莉恋ちゃんがロバのキャラクターを集めています」
「莉恋ちゃん、幾つだっけ?」
「8歳……小学二年生です」
受け取ったケータイを畳みながら、軽く閉じた目を開けて、聞き取れない様に声を出す。
「もしかしたらさ。やばいんじゃないの……これ?」
目を合わせると確認をする國村。
「姿を変化させられる『秘匿』の持ち主。怜莉くんと一緒に住んでいる彼女が予想通りに彼女がイブだとしたら」
「イブは子供服を着ている」
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